En la cima de la montaña Una montaña nueva 津村光之氏自伝

先日、ペルートップクラスの旅行代理店であるMickey Tour(ミッキーツアー)の社長、津村さんから1冊の本を頂戴した。タイトルは “En la cima de la montaña Una montaña nueva” 、津村さんの自叙伝だ。

団塊の世代に遅れて誕生し、物心ついた時には “一流大学を卒業して大手企業に就職し、一生勤め上げるのが最高の人生” という画一的な価値観が時代を覆っていた。少子化の現在からは想像もつかない競争社会で、頑張ったからといって全員がトップに就けるわけではない。厳格な父上からのプレッシャーも加わり、かなり抑うつとした青春時代を過ごされたようだ。

第一希望入学の夢は破れ東京の大学に進学、卒業後も大手企業への就職は叶わなかった。就職先から派遣されたシカゴでは希望していたポジションにつけず、その悔しさや敗北感についても素直に記されている。

そんな津村さんが始めてペルーにやってきたのが26歳の時。「sin saber nada de este país. Nada de nada de nada(この国について何も知らず、まったく何一つ知らず)」やってきたペルーでの生活はさぞや大変だっただろう。だが「知らなかったからできなかった」で終わらず、叔父を見習いひたすら経験を積み重ねていくところはさすがだ。丁稚奉公さながらの労働、結婚と子供、独立と起業、日本のバブルと出稼ぎブーム、テロ時代と自宅前での銃撃戦、悪性腫瘍と手術、大使公邸事件の人質、信頼していた友人からの裏切り、空港でのトラブル、そしてコロナに関わる緊急帰国のためのチャーター便の手配の苦労などエピソードが満載で、「soy un hombre común y corriente(私はごく普通の、ありふれた男だ)」とある度に「いやいやいや!それは違う!」と突っ込んでしまった。

判断に迷った時は、より厳しいほうの道を選ぶという津村さん。その選択に「なぜそっちを選ぶんだ?もっとうまくやれよ!」と声を上げるペルー人読者は少なくないだろう。そんなご自身の哲学を日本の戦国武将や新選組の土方歳三の生き方を交え、「私はそういう人間なんだ」と淡々と語る。周囲の言に惑わされず足元をしっかりと固め、自分の会社や仲間を守ることに注力せよと、2人の子供たちに教える。

そうそう、本書には津村氏の長男でリマのニッケイ料理レストラン「Maido」のオーナーシェフであるミツハル氏と、獣医として名高い長女のテッシーさんが寄稿している。父への愛情と尊敬の念が溢れていて、胸にぐっときた。

津村さんは2022年春の叙勲で旭日双光章を受章、8月26日(金)にはリマの日本国大使公邸で片山駐ペルー日本大使による授与式が行われた。日秘商工会議所観光委員会委員長としてペルーの観光促進に大きく寄与し、理事長として会をまとめ盛り立てた津村さん。ペルーと日本の空を長年に渡って繋いできたその功績は、受章に十分値する。

“En la cima de la montaña Una montaña nueva(上り詰めた先にまた新たな頂がある)” 。ぜひお読みいただきたい一冊である。

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