その男、ラウル。

ガスフィテロ・ラウル。アンカシュ出身の51歳。15歳年上の奥さんと5人の子供がいる。14歳から見様見真似で仕事を覚えた。小学校をちゃんと卒業したのどうか、文字が書けない。「その料金でいいから見積書を書いてよ」「俺は(文字が)書けない!」「じゃ私が書くから、ここにサインとDNI番号書いてよ」「DNI番号、知らない!覚えてない!」よくまあそれでこのリマという魔窟で暮らせるものだと呆れるが、その超直球なところが気に入られているのだろう、それなりに引っ張りだこのようである。

廊下にSalitre(湿気によるペンキの浮き)が発生して以来、我が家のトラブルは断続的に続いている。アパート修理物語その1その2に登場したGasfitero Aは、7月末に彼の父親が亡くなってから鬱になってしまったらしい。うちに道具を置いたままだし、工賃も未払いだというのに電話しても来ないのだ。ガスフィテロのくせにインテリだったから、打たれ弱いのかもしれない。

その点、ザ・工夫といった風情のラウルは逞しい。これまでの状況を説明したら、何の躊躇もなく壁を掘り始めた。壁を壊す作業は重労働だし、埃も凄い。ところが単純作業だからだろうか、業界的には工賃の安い仕事らしく、インテリのAはその作業を嫌がっていた。だから頭でっかちは使えない。

ラウルはシンプルだ。「掘るか」「どこを掘るか」「ここか」と言うが早いか、壁をガンガン叩きだした。ただラウルの困ったところはあまりにも大胆で、慎重さとか繊細さとかが一切ないことだ。ちょっと目を離した隙にどう見ても問題のなさそうな場所まで掘り進んでいて、それを注意したら「配管、ないな!」と。ない、じゃなくて、ちゃんと探しながら掘ってよね。

それにしても、このアパートがいかに手抜き工事であるかを目の当たりにしてちょっと辛い。コンクリートの壁なのに石がごろごろ落ちてきたし、意味不明な鉄線も出てきたし、なんたることか。「これってちょっとひどいよねぇ」とラウルに言ったら、「ひどいな!」とズバリ。「これよりひどい家ってある?」と聞いたら「ある!トイレの配管が風呂の配管に繋がってた!臭かった!」と。そんな家と比べないでよー!

その男、ラウル。うちのトラブルはまだ続いてるけど、彼のキャラで救われている。もうこの男から目が離せない。