とあるコンサートに出かけた時のこと。開演予定30分ほど前の、19時すぎに現地到着。会場の外にはすでに長蛇の列ができていた。
私の前後には、①母親と大学生くらいの息子 ②母親と娘2人(うち1人は障害あり)③私達 ④白いオバサマ3人組み が並んでいた。
開演予定時間が過ぎたころにやっと開場したらしく、列が進み始めた。しかし途中からほとんど動かなくなり、みんなイライラし始めた。「ちょっと、なんで進まないのかしら」「もう始まったの?まだなの?」主催者側からのインフォメーションはなく、時間だけが過ぎていく。
どこからともなくやってきた若いカップルが、①の息子君に話しかけた。そこを通りがかったら偶然友達を見つけた、という感じだったのだろう。しかしその場でおしゃべりを始めた彼らに、④のオバサマたちが食って掛かった。「ちょっと、あんたたち、ちゃんと列に並びなさいよ。割り込みは許さないわよ!」
何食わぬ顔をしていつの間にか列に割り込む、という輩は本当に多いから、オバサマたちの抗議も当然といえば当然だ。しかし「大丈夫ですよ。彼らはここで話してるだけで列には加わりませんから」と①の母親が説明したにも関わらず、「だったらあっちで話しなさいよ。そう言って割り込むのがペルー人なんだから!」としつこく食い下がるのには、ちょっと辟易してしまった。心に余裕のない人たち。過去に余程いやな思い出でもあるのだろう。
しばらくの後。
今度は①の母親が②の母親に何か話しかけていた。どうやら日本でいうところの障害者手帳を持っていないのか、と聞いているようだ。「もし手帳があるなら、あなたたちはここに並ぶ必要はないのよ。これは法に定められたあなたの娘さんの権利なの。もちろん付き添いも同じ。心配ならこの場所は確保しておいてあげるから、前に行ってきなさいな」
自分の番が来るかどうかさえ危うい時に、自分より後ろにいる人を優先させるなど、できそうでなかなかできる事ではない。ましてや階層社会のこの国で、明らかに違うクラスの母娘の状況を心配し、分かりやすい言葉で説明してあげるその様子に、私の目は釘づけになった。
すでに開演となっていたため結果的に優先してもらえなかった③の母娘だが、「これまで誰もそういうことを教えてくれなかった。いつも大変だったけど、これからは先に手帳を見せてみるよ」と、娘を抱えながら嬉しそうに話していた。
大幅に遅れた開演の30分後、定員オーバーでコンサート会場に入れなかった人たちのために、主催者側がスクリーンを設置した別会場を用意してくれた。ありがたいとは思ったものの、ライブで聴きたい類の音楽だったため物足りず、早々に会場を出てきてしまった。
待ち時間1時間45分、拝聴2曲。身体的には疲れたけど、それほど悪い気分ではなかった。