水漏れ修理生活 その4

そもそもなぜうちの風呂場に浴槽が収まらなかったのか。2階と3階は同じ間取りだ。ということは、うちの風呂場がわずかに狭いということか。ペルーはなんちゃって建築だから、図面通りに建てているとは限らない。参ったなぁと思っていたら、フェリックスがニコニコしながらこうのたまった。「あ、2階も入らなかったんですよ」マジかー?!

呆れてものが言えない。それを知ってて150cmのを勧めたのか、それとも忘れていたのか?「いやー、へへへ」・・・絶対忘れてたんだろう。日本人には信じられないことだが、こやつらは “忘れる” のが素晴らしく上手なのだ。

問題が起こらないように事前に準備するのではなく、問題が起こってから解決策を考える。それはここの文化だから仕方がないが、この「さくっと忘れてしまう」特技にはとことん翻弄される。そういえば新聞配達のアルトゥーロも、なぜか時々配達を忘れる。もう何年もの付き合いだし、3紙頼んでいる顧客なんてウチしかないのに、それでもふと忘れるのだ。これは育った環境によるのか、はたまた遺伝子レベルの問題か。もちろんそうではない人もたくさんいるが、パーセンテージは相当高い。

忘れたものは仕方がない。解決方法を訊ねると「浴槽の縁を切るか、壁を掘るかですが・・・浴槽を切りましょうか?簡単ですよ」と。切るのは絶対いやだ。もし浴槽に亀裂が入ったらどうすんのよ。あんた、弁償できるの?「じゃあ壁を掘りましょう。大丈夫です、2階も掘ったんですよ」だったら最初からそう言いなさい!

余計な仕事が増えた(自分で増やした)にもかかわらず、億劫がらずにニコニコと仕事を始めてくれるのがフェリックスのいいところだ。大理石のカットは埃が凄くてとても監視していられない。ここは任せるしかないと、ドアを閉めてしばし待つ。落ち着いたころに覗いてみたら、ちゃんと浴槽が収まっていた。わーい!

フェリックスが帰った後、もう一度風呂場に入ってみた。うんうん、ちゃんと収まったじゃないか。ところがよく見ると、掘った壁の内側にある配管に修理の後があった。水漏れ修理をお願いしているのに、なぜ配管を切ってしまうのか。頼むわ、もー。

翌日フェリックスに「あんた、ここ、切ったんでしょう。これでちゃんと修繕できてるの?水漏れは?」と問い詰めると、「大丈夫ですよ!ここは水道管じゃなくて排気管だし、きちんと塞いでラテックスを塗ってますから。2階のも切ってしまったんですが、同じように修理しました。今も問題ありませんよ!」そこに排気管があることも忘れてたんだね・・・。

恐るべし忘却の技。こうして毎回ゼロクリアできるからこそ、この社会保障のない理不尽な世界で笑って生きていけるんだとしみじみ思う。そして怒りより、笑いのほうが込み上げる不思議な感覚。素晴らしきはペルー生活。ここで学ぶことはまだまだ多い。