写真家たちのクスコ ― マルティン・チャンビと20世紀前半のアンデス写真 ―

日時:11月22日(木)~12月12日(水) 、月~土 11:00~20:00、 日 10:00~12:30
場所: セルバンテス文化センター東京(インスティテュト・セルバンテス東京)2Fギャラリー
入場料:無料
企画/構成:白根 全
内容: 80年代初頭からペルーに通うカーニバル評論家/ラテン系写真家、白根 全のプライベート・コレクションの一部から、日本では初公開となる日系2世の写真家エウロヒオ・ニシヤマほか、チャンビたちが記録したクスコとそこに暮らす人々の生活が息づく作品65点を展示。

■白根全氏のメッセージ

ラテンアメリカはコロンブスによる「発見」以降、歴史や言語、文化的な背景を共有してきた広大な大陸です。共通する文化要素を分母としながら、それぞれの国が個性豊かな表情を見せる多様な世界で、いわば一つの巨大な国の中にメキシコ県やペルー州、アルゼンチン藩が存在するような構図といえるでしょう。そのラテンアメリカに写真が伝えられたのは、1840年までさかのぼるとされています。これは世界最初の写真技術ダゲレオタイプが発表されてから、わずか1年後のこと。以来、写真という新しいメディアは、ラテンアメリカ全域のあらゆる地平で多様な在り方を刻んできました。それはあり得ない現実、つまり「魔術的リアリズム」としか言いようない、生と死の間に存在する要素すべてを記録した壮大な物語であり、時空を越えた歴史の堆積でもあります。

ラテンアメリカ写真の豊穣な世界の中でも、とりわけ卓越した表現で知られたのがインカ帝国の首都だった古都クスコを拠点に活躍したペルー先住民出身の巨匠マルティン・チャンビと、同時代の写真家たちでした。歴史家のパブロ・マセーラは、この写真家たちのグループを “Escuela Cusqueña de fotografia”(直訳すれば「クスコ写真学校」)と名付けました。これは写真技術を教える教室ではなく、写真家たちの集うサロンであり、またお互いが刺激しあい切磋琢磨する場となってきました。「光の詩人」と呼ばれたマルティン・チャンビを中心に、20名を超す写真家たちが個々に活動しながら、新しい撮影機材や感材、現像技術などの情報交換をして腕を磨き、自らの表現を追求しました。これらの作品を収蔵してきたのが、クスコの「フォトテカ・アンディーナ」という写真アーカイブです。クスコを訪れるたびに足を運び、少しずつ集めてきた写真65点をこのたび展示することになりました。

アジェやブラッサイが愛するパリ市街を丁寧に記録したように、アンデスの写真家たちはクスコの街を彼らの視線でとらえ、外部の作家とは異なる表現に結実させてきました。本展は日系2世の写真家エウロヒオ・ニシヤマはじめ、日本では初めて紹介される20世紀前半のアンデス写真展となります。今まではインカ帝国とマチュピチュ、つまり考古学の分野でしか語られることのなかったペルーですが、その大地に開花したアートの存在は、見る側の想像力と視線を試されるような大きな刺激ではないでしょうか。

※金、土の13時以降、白根氏によるギャラリー・トークを随時開催。ギャラリー内写真撮影可。