クチ~~~ジョッッッ!!

♪ ピィ~ヒョロ~、ピィ~ヒョロロ~ ♪♪ な~べ、フライパ~ン、ほ~うちょ~う ♪

今日もafilador(アフィラドール/刃物研ぎ屋)が、おもちゃのサンポーニャ(アンデスの笛)を吹きながらやってきた。ペルーのインフォーマルセクターを代表する職業の一つ。タイヤに連動させた回転式の砥石で、包丁やはさみ、焦げ付いた鍋の底などをきれいに磨き上げる。

♪ オ~ジャ、サルテ~ン、クチ~ジョ~ ♪ 歩くスピードにあわせ、のんびりと笛を吹く刃物研ぎ。昔むかしの豆腐屋さんを彷彿とさせる、なんともほのぼのした光景だ。

★★★★★★★★★

ある日のこと。

♪ ピィ~ヒョロ~、ピィ~ヒョロロ~ ♪ 音のほうに視線を向けると、道路の向こう側をゆっくり歩く刃物研ぎの姿があった。♪ な~べ、フライパ~ン、ほ~うちょ~う ♪ 一生懸命声を張り上げるも、なかなか客が見つからないようだ。

♪ オ~ジャ、サルテ~ン、クチ~ジョ~ ♪ ここは住宅街だからなぁ。特に週末の午後なんてみんな外出しちゃって、誰も家にいないんだろう。

声が掛からないことに業を煮やしたのか、そのオヤジは実力行使に出た。門番がいなそうなアパートに立ち止まり、上から順番にインターフォンを押し始める。そうそう、時々うちもやられるんだよな~。営業方法としてはありだけど、必要ないのに呼び出されるのは堪ったもんじゃない。

いくつか押してやっと反応があったのだろう、そのオヤジはインターフォンに向かってこう叫んだ。

「クチ~ジョッ(包丁っ)!」
「クチ~~~ジョッッッ(ほぉ~うちょうっっっ)!」

ああ、なんて分かりやすい営業トーク!「おくさん、あっしは刃物研ぎでやんすが、一本研かせては貰えませんかねぇ」そんなまどろっこしいことは言わず、直球で攻める攻める。

基本的に他人の迷惑を考えない人たちだから、自分の用件を一方的に伝えることになんら躊躇がないのだ。単刀直入すぎて素晴らしい。顧客満足度は相当低いだろうけど。

その後もそのオヤジはインターフォンに向かって「クチージョ!」と叫び続けていた。爽やかな青空の下、静かな住宅街に物騒な言葉だけが響き渡っていた。