おじいさんのボロボロタクシー

ゆっくり行こう

昨日の夜、流しのタクシーを捕まえた。運転手は小柄なおじいさん。「●●通り、知ってる?」と聞くと、「●●通り、知ってる」とそのままリピートするだけ。どうやら無駄口を叩かない頑固系オヤジらしい。

彼が提示した料金は13ソレス。悪くないが、いつもの癖で「12は?」と言ってしまった。すると「ワシは13ソレスと言っておる」と。はい、若造が失礼しました。では乗らせて頂きます。

正月2日目はまだ休みの人が多いのだろう、道はとても空いていた。これなら20分くらいで帰れるかもしれないと思ったが、どうにもノロノロ運転で前に進まない。まるで教習車のようにゆっくりカーブを曲がるし、ゆっくり発進する。荒い運転よりずっといいが、こんなに空いてるとさすがにイラッとする。

しかも。よくよく見るとハンドルのホーンボタンはなく、代わりに汚いタオルが突っ込まれている。メーターパネルは全滅で、辛うじてデジタル時計だけが光っていた。これほど運転席が真っ暗な車を見るのは久しぶりだ。新車が溢れるリマ新市街で、これはなかなかの珍品ではないか。

こうなると質問したくてたまらない。「自分が走ってるスピードって分かるの?」「ガソリンの残量ってどうやって知るの?」「ほかの車にクラクション鳴らされるでしょう?」日本でこんなこと聞いたら、キレられるんだろうなぁ。

おじいさんは“なぜそんなつまらん質問をするのだ”と言わんばかりにこちらを一瞥した後、「前に進んでおるからいいのだ」と、何とも言えぬ説得力のある回答をよこしてきた。加えて「何時間走ったで、ガソリンの量は分かる」「急いでも信号が変わるだけだ。ほら、ワシが走ったら青になっただろう」と。時間でガソリン残量を測るなんて、まさに職人技!

「今はタクシーじゃが、昔はコンビやミクロの運転手もしとった。38年も運転しとる」「今の奴らは免許証を金で買うから下手くそだ。ワシの時代はそりゃ難しかった。だからいっぱい練習した」「メーターが付いてても事故を起こすヤツばかりじゃ。ワシは事故を起こしたことはない!」彼は、携帯アプリなんていう意味不明のものを操る若いタクシスタが疎ましいのだろうか。時代の変化について行けない者は置いていかれるのが常だが、こういうおじいさんが生き残る道がまだ残っているところに、ペルーの懐の深さと余裕を感じる。

そのままノロノロと安全運転で帰宅。30分かかったが、事故がなかったのだから良しとしよう。そういや以前もノロノロで安全運転の運転手がいたな。急ぐ時にこんな運転手に当たったらたまらないが、何事も急ぎ過ぎるほうがよくない。急いでも急がなくても、時は勝手に過ぎていくのだから。2017年は始まったばかり。今年もゆるゆると行きますか。