リマ バス物語 コンビ編

ある日の午後、いつものように「combi/コンビ」に乗った。コンビとは、リマ市内を走るバスの中で一番小さいミニバンタイプのものだ。事故も多いし、あまり乗りたくはないのだが、今回の目的地に行くためにはコンビしかないので仕方がない。

やってきたコンビの後部は満席で、運転席と助手席の間しか空いていなかった。ちなみにこのシートベルトのない座席に客を座らせても、警察はそれを咎めない。死亡率は高いし座り心地も最悪なのだが、運賃は同じ。ま、ペルーだね。

乗ってみたら、最近の中では久しぶりのヒット!というくらいボロかったので、運転手の目を盗んでパチリ。最近は随分きれいなバスも増えてきたのだが、やっぱりコンビはボロが多い。差し込んだだけのラジオは揺れる度にカタカタいうし、どんなに走ってもスピードメーターはゼロのまま。ガソリンは半分くらいあるようだが…それも実際はどうだか。これで車検が通るんだから、ま、ペルーだわ。

前の席のメリット(デメリット)は、前方がよく見えること。人を轢きそうになったり、他の自動車にぶつかりそうになったりと、色んな風景が見えてしまう。
と思っていたら、あっ!お婆さんが道を横断しようとしてる!もっと早く渡らなきゃ、こいつに轢かれちゃうよー!

ところが、このコンビの運転手はすっとスピードを落とし、お婆さんに「どうぞ」と手で合図した。しかも笑顔で!お婆さんもそれに気づき、会釈してゆったりと渡った。一般車ならまだしも、コンビの運転手でこんなに心に余裕がある人も珍しい。イイもの見たな♪でも客を拾いたくて、たまたま減速しただけかもしれないが…。

と思っていたのだが、その後も歩行者に出くわす度に、この運転手はニコニコと道を譲ってやっていた。時には、どうみても歩行者が待つべきだろうと思われる場合でさえ、「仕方がないなぁ」という顔で減速し、渡りきるまで待っていた。わー!いい人に当たっちゃった!今日はなんていい日だろう!

あんまりいい人だったんで、もう一枚パチリ。今度は運転手と目があってしまい、慌てて風景を撮影するふりなんかしてしまった。はは。私が下りる時も、「信号が変わるからちょっと待ってね」と言って安全な場所で止めてくれた。お礼を言ったら「どういたしまして」って。ひゃーん、いい人だー!

日本の人は「そんな怖いバスに乗らなきゃいけないなんて、大変ですね」って言いそう。でもリマの人は「そりゃいい運転手に当たったね。よかったね」って言うだろう。小さなことで幸せな気分になれるのがペルーのいいところ。

どんな状況でも、視点をちょっと変えるだけでキラキラとした素敵な経験になる一例ってことで。