カルナバルの水かけに想う

子供のころ、「人に向かってモノを投げてはいけない」と教わった。ましてや「ぶつけるのはもっての外」ときつく言われたものだ。そりゃそうだろう、小さなものでも当たったら痛い。それが不意だったら尚更だ。故意にぶつけていいのはドッジボールのボールと、雪合戦の雪玉だけ。そう思っていた自分は間違っていたのか。そんな疑問を抱かせるのが、カルナバルの「水かけ」だ。

先週訪れたカハマルカでのこと。カルナバルのメインイベントである大パレードを待つ間、人々は水のかけ合いを楽しんでいた。正しくはかけ合いではなく、観覧席に座った観客が、目の前を通り過ぎる歩行者を狙って一方的に不意打ちをしかけるパターンだった。通りにはちびっ子ガンマンがたくさんいたが、子供たちが水鉄砲を発射してくる分にはある程度予測がつく。しかし、客席から突然飛んでくる水風船をよけれる人はほとんどいない。中には顔にぶつけられて激怒する人や、不意の攻撃で荷物が路上に散乱するなど、笑えない状況も多かった。

でもみんな大笑いしてるんだよね。怒っている人を見て、困った顔をしている人を見て大笑い。「お前がここを通るから悪いんだよ!」「ぼーっとしているお前がバカなんだ!」・・・なんだろうね、この違和感。

「グリンゴ(アメリカ白人に対する蔑称)が来たぞ!」という叫び声に振り向くと、向こうから白人の若者が数名やって来るのが見えた。すでに全身ビショビショの彼らに、水風船や水鉄砲が容赦なく投げつけられる。屋根の上からもバケツの水が降ってきた。見知らぬ人たちから「グリンゴ」と叫ばれ水をぶっかけられるなんて、恐怖以外の何物でもない。可哀そうに、女の子なんてもう涙目だ。

普段は穏やかなアンデスの人たちだが、その遺伝子には白人に対する恨みが深く刻まれているのだろう。だからここぞとばかりに攻撃する。まさに集団リンチ、でもみんな笑っている。笑って許される範囲があまりに広すぎて、私はとてもついて行けなかった。

水かけに参加する気がないなら、最初からこんな場所に来るべきではない。来たからには多少濡れることは覚悟すべきだし、いちいち怒っていては身が持たない。分かっているさ、そんなこと。それでも人に物を投げつけるってどうかと思うし、不意打ちって見ていて気持ちのいいものではない。ペルーをもっと理解できれば、あの笑いの意味も分かるのだろうか・・・。このモヤモヤは当分消えそうにない。