白髪抜き

乗っていたバスが、ちょうど客待ちをしているタクシーの横に止まった。眼下では、タクシーの運ちゃんが熱心に自分の白髪をピンセットで抜いている。あは、なんてステキな光景だろう。これだから街角ウォッチングは止められない。

アンデス系ペルー人は黒々とした髪の主が多く、年齢の割には白髪が少ないように思う。最近は誰も彼もが髪を染めるので、リマにはインカの血を引くお顔ながら髪は都会仕様というなんとも微妙な人がたくさんいるが、アンデス地方にはツヤツヤとした見事な黒髪の人が今も多い。強烈な紫外線を否応なく浴びながら生きる彼らの髪が、遺伝的に強いのは当然だ。メラニン色素たっぷりの黒髪が、彼らの頭皮をしっかり守っている。

そんな彼らでもやっぱり白髪は気になるんだなぁと思いながら、彼を眺め続けた。この運ちゃん、抜いた髪をご丁寧にハンドルに並べて貼りつけている。あぁこの動作、分かる分かる!人はなぜかこういうモノをわざわざ取っておいて、後からまじまじと見てしまうのだ。私も「抜いちゃだめー」と思いつつ抜いてしまった白髪を、なぜかわからないけどじーっと見てしまうことがある。ぷちゅっと押し出したニキビの脂とか。まるで毛づくろいをするサルのようではないか。いやん、この動作も遺伝かしら。

信号が変わるまでじーっと見ていたけれど、こちらの視線に一向に気づかないタクシーの運ちゃん。彼はあのマイピンセットをいつも持参しているのだろうか。「ハニー、最近ちょっと老けてきたんじゃない?」なんて年下の妻に言われたのだろうか。同じところばかり抜いたら、禿げちゃうんだよー!彼に掛けたい言葉をいっぱい飲み込んだままの私を乗せて、バスは発車してた。

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