岩ゴケの侵食でマチュピチュ遺跡閉鎖も?

ペルーが世界に誇る世界遺産マチュピチュ遺跡。来年1月にユネスコによる保全状況調査が行われる予定ですが、岩ゴケ(地衣類)の繁殖による遺跡への影響がどのように評価されるかが話題になっています。

これについてペルー文化相スサナ・バカは、「ユネスコの判断によっては、岩ゴケを除去するため一時的に遺跡を閉鎖することもありうる」とラジオ番組でコメントしました。

この地衣類、物理的・化学的に少しずつ花崗岩を侵食し、遺跡にダメージを与えるといわれています。「カミソリの刃一枚も通さない」と言われるインカの精緻な石組みですが、そのわずかな隙間や表面の窪みにはびこる地衣類は、遺跡内で47種類ほど確認されているそうです。Wikiによると「石をかち割らないと取れない」ようで、除去の具体的な方法についても気になるところです。

マチュピチュ遺跡が世界遺産に登録されたのは1983年ですが、その後2007年には新・世界七不思議のひとつにも選ばれました。その影響でしょうか、2004年には20ドルだった外国人の入場料が、今では2.3倍にも跳ね上がっています。にもかかわらずこの遺跡を訪れる観光客の勢いは衰えず、ユネスコの勧告に基づき7月後半にはとうとう入場制限が実施されてしまいました。

遺跡の保有国としては、世界遺産リストに名を連ねることで知名度が上がり、自国のみならず世界中から観光客を呼び込めるという大きなメリットがあります。一方、ユネスコによる世界遺産への登録は対象の恒久的保存が元来の目的なので、その手段として遺産の用途が制限されるケースも当然あり得るでしょう。登録抹消を回避し、持続的にメリットを享受するためにはユネスコの勧告に従わざるを得ないというのが各国の本音ではないでしょうか。

過去に日本で富士山を世界遺産に推す動きがあったようですが、環境問題により見送られたといいます。実際に登録にこぎつけていたとしても、入山制限などの規制事項が設けられれば富士登山を毎年楽しみにしている人は意気消沈するでしょうし、少ないパイを取り合う新たな争いが発生することも考えられます。未来の人類に受け継がれるべき自然や文化の保護や保存が大切なことはいうまでもありませんが、一般人の立ち入りが禁止されているような世界遺産の話を聞くと、生前に使われなかったが故に「遺産」なのだと改めて言葉の意味を反芻してみたりもします。

とはいえ、そのおかげでマチュピチュ遺跡の知名度は上がり、今や万人の知るところとなりました。クスコには黙っていても毎日多くの外国人がやって来ます。世界遺産のタイトルを維持し続けることで観光マーケットにストレスが生じるのなら、いっそ「ユネスコ非上場」を企て、顧客であるツーリストのニーズを満たす方が良策なのかも知れません。